『ディアナ・ソル・サイアンという怪物』

(Long time ago)

 愛、を。あいを。
 捕まえて、優しく抱きしめたつもりなのにそいつはどうしてだか腕の中から落ちていた。締め上げて、殺してしまったらしかった。
 だから今度は間違えないように自分を与えた。抱き上げることはしなかった。
 かよわい人間の中でもいっとう弱く脆い子だから、きっと大事に。そっと大事に。

 

『ディアナ・ソル・サイアンという怪物』

(あなたのいうことが俺の真実)

 

 薄暗い朝だった。眩しい夜だった。朝でも夜でも、どちらでもいいと思った、このひとの腕の中ならば。
 愛している、と気が付いてしまった人間に、初めて触れたらどうしてだかそいつは動かなくなってしまった。どこを漂っているのだろうかと、あたりを見回してもどこにも居ない。朽ちた肉体を開いても臓物がでてくるだけだった。どうしてそこにいないのか、そのときの俺はまるでわからなかった。

「『死んだ』んだ、そいつは」

 それが第一句。魔王と呼ばれる同類との出会いだった。

「死んだって? なにもしていないぞ」
「精霊種と物質種は違うんだ。お前が『想い』をこめて触れれば人間はその魔力にやられて死んでしまう」
「どこかにいるはずだ。喰えばそりゃあ、いなくなるだろうが」
「体が死んだらお前が送り届けてやることも、食べてやることもできないまま魂は還る」
「かえるって、どこに」
「強いて言うのなら、蒼穹の下に」

 淡々と告げる魔王に俺はどうしていいのかわからなかった。
 人間が脆いことは知っているつもりだった。人間が弱いことは知っているつもりだった。けれども『いなくなる』だなんて。
 それは私たちのような存在が『消滅』することと同じか? 少しずつ理解が追い付いて、あぁ、もう俺が彼を認知することはできないのか、とひどく恐ろしく思えたことを今でも覚えている。

     ***

 薄暗い朝だった。眩しい夜だった。
 いつしか俺の真名を知り、名前を与えた魔王が私の全て。

「愛しい子はできたか」
「なにを言っているんだ。もう人間は愛さないって」
「愛しい子がいないと、私がいなくなった時に寂しいだろう」

 魔王がいなくなるだなんてまるで想像もできない。
 あぁ、けどたしかに。寂しいかも。あんたがそういうなら。