『ひとでなしの友達』

(Days in the past)

「蕩ける」
「なにがです?」
「言わないよ、ばか」

 おれが生まれて十一回目の誕生日に白雛がくれたのは、屋敷の厨房の半日所有権だった。俺の誕生日だっていうのになんでかおれは白雛にカップケーキをつくったりもした。それで、お茶会の準備もしないまま、調理台の上で出来上がったケーキを、食べさせている。
 ねえ、吸血鬼って血以外ではどんな味がすんの、なんて。生まれた時から吸血鬼の白雛がおれの味覚を知ってるわけがないから、比べようもなくて、成り立たない質問なんだけど。
 けがをしたときに、自分の血を舐めてみたことがあるんだ。味はよくわからなくって、けど、吐き気がするほど気持ちが悪かった。
 ねえ、おれって魅力的? 美味しそう? そう、だといいな。

 ルージュの通る美しい造形をした唇がおれの指先ごとケーキを食んでは息を漏らして生クリームを舐めとっている。わざとらしくも淫猥なその仕草に息を飲むと、蠱惑的な瞳とかち合った。かと思えば、簡単に閉じられる。
 庭に咲くばらと同じ色が恋しくて、白雛の唇に触れては指先を挿し入れた。
「血、いらないの」
「ケーキ、美味しかったですよ」
 白雛はこの話をするたびに話をそらした。なんのことかわからない、あるいは、俺の言葉が聞こえてないみたいに。八重歯って言うには鋭いその牙に指先を這わせて、やんわりと腕を掴まれる。
「おれの血、飲んでみて」
「食べ物じゃないんです、ゆなくんは。私の大事な、お友達」
 白雛は笑っておれの口を唇一つで止めてしまう。おれの指先を、牙を立てずに舌先で舐めて、口端を濡らしたままおれの唇と触れ合わせる。自分の唾液に濡れた白雛の唇は甘かった。このままカップケーキみたいに食べられちゃえばいいのにな、なんて。わがままだな、おれ。
 愛していたし、恋してた。だから、おれの血もあげたかった。もっと知って、支配してほしい。そういうのも、支配欲って言うんだろうか。
 白雛はおれのリボンタイに指をかける。この国でリボンは、所有の証。その下には、白雛のキスマーク。
「こういうことはするのに、お友達?」
「ふふ、お友達だからですよ」
 こんな一方的な友達があるもんか。そうは思うけど言えない。シャツのボタンを外しながら、調理台のカップケーキを探していた。
 生クリームのたっぷりついたそれを、開いた胸板に落としてみると、白雛は酔狂に酔ったように微笑んだ。紅い瞳がおれをみる。胸の先っぽについた生クリームを舐めとる白雛は性液の味なんて知りません、みたいな顔をして、ばかみたいに綺麗だ。