『炭酸』

 ソファに沈んだ体。レンの左肘とぶつかる。ふと目に入ったのは、上質なティーカップ。

「其れ、何」

 最近出来た友人の下手物好きが感染ったのだろうか、と考えた。
 珈琲派の自分でさえ付き合いで毎日と言って良い程飲まされる赤と白の混じった、馴染みの茶。……其れが、爽やかな音を立てて気泡を上げていなければの話だが。如何考えても炭酸水だ。あの独特で爽やかな飲み心地を与える夏の飲み物。それが、何故、芳醇な紅茶の中に。

「てぃーそーだ、ってヤツ? ウマいよ」
「……味噌抹茶プリンと比べたら、じゃないのか」

 覗き込んだカップの中にはいつも通り溶け切らなかったのであろう砂糖が沈んでいた。知りたくない事実。
 不意に近づいたレンの顔を避ける間も無く唇を合わせた。
 ただのキスなら大歓迎だが今だけは止して欲しかったと思う。つい癖で開いてしまった唇に流し込まれたのはさっきまでこいつが飲んでいた、あのドロドロになるまで砂糖を流しこんだ炭酸入りの紅茶だ。

「……うぇ」

 思わず声が出た。下手物を流し込むだけ流し込んで、舌も入れずにそのまま離れていった事には、ある意味助かった。味わう前に飲み下す。
 微妙な紅茶の香りと、微妙な炭酸の泡と、ドロドロの砂糖水。

「うまいだろ?」
「嘘つけ。馬鹿」

 

『炭酸』
(イルレン/日常の切り取り/メモ)